研究テーマ
マラリアは、熱帯・亜熱帯地方で流行する感染症です。その病原体は、マラリア原虫という単細胞の寄生虫であり、ハマダラ蚊によって媒介されます。2022年に公表されたWorld malaria report によると、年間の感染者数は2億4700万人、死亡者数は61万9,000人と推計されています。マラリアによる死亡者数の大部分は、アフリカのサハラ砂漠以南の5歳以下の子供であり、アフリカの中・低所得国における小児の主要な死因の一つとなっています。マラリアは診断が確定し、適切な治療を実施すれば完治する感染症ですが、アフリカ貧困地域に暮らす人々は治療薬を購入することができないなどの社会問題が横たわっています。そのため、持続効果のある予防内服薬、マラリアワクチンなどの有効なマラリア対策法の開発が求められており、その情報基盤となるマラリア原虫の寄生適応機構の解明が急務とされています。
寄生虫学研究室では、熱帯熱マラリア原虫の赤血球寄生ステージにおける寄生適応の仕組みを解析しています。また、マラリアワクチンの標的分子の探索、伝搬阻止ワクチン開発の基礎研究なども行っています、
熱帯熱マラリア原虫の寄生胞膜関連分子の機能解析
熱帯熱マラリア原虫生殖母体感染赤血球における原虫タンパク質輸送の分子機構の解析
マラリア伝搬阻止ワクチンの候補抗原の探索
実験手法
熱帯熱マラリア原虫の培養
熱帯熱マラリア原虫の発育ステージの鑑別(ギムザ染色)
赤血球に寄生した原虫は、48時間周期で無性的に発育・増殖を繰り返す「無性生殖期」と蚊体内での有性生殖に必須のステージで約2週間をかけて成熟する「生殖母体期」に大別されます。各発育ステージは、感染赤血球のギムザ染色像(下図)により鑑別することができます。

「無性生殖期」
「生殖母体期」
熱帯熱マラリア原虫・生殖母体期の発育ステージの鑑別(間接蛍光抗体法)
生殖母体期に特異的に発現する原虫タンパク質の抗体(生殖母体マーカー)を用いた免疫染色により、無性生殖期と生殖母体期を判別することができます。さらに、生殖母体マーカーの反応と原虫の形態的特徴により、生殖母体の発育ステージを鑑別します。

熱帯熱マラリア原虫は、試験管内で培養することができます。熱帯熱マラリア原虫は、病原体等安全管理規程においてバイオセーフィティーレベル2(BSL2)に規定されているため、培養操作は安全キャビネット内で行います。研究室では、ヒト赤血球を用いて熱帯熱マラリア原虫を培養し、様々な実験を行なっています。

